オーガニックと水耕栽培-農業の未来-
オーガニックと水耕栽培は、農業の未来を考える上で最も注目されているテーマです。自然循環と健康に配慮したオーガニック農産物と、革新的な水耕栽培技術の融合により、持続可能な食料生産の新しい道が開かれています。今回は、両者の組み合わせがどのように未来の農業に影響を与えるかを探ります。
INDEX
オーガニックってなに?
オーガニック(直訳「有機」)とは、化学的に合成された肥料や農薬を使用せず、自然の要素を活用して行われる農林水産業や加工方法を指します。日本では1999年、JAS法に基づいて有機農産物および有機加工食品のためのJAS規格(有機JAS制度)が定められました。この基準を満たした国産品および輸入品だけが「有機JASマーク(※)」を表示する資格を持ち、「オーガニック」や「有機」であることを表します。このマークにより、消費者は安心してオーガニック製品を購入できます。
※農産物、加工食品、飼料、畜産物、藻類に表示
日本と世界のオーガニック市場
近年、スーパーの食品売り場でもオーガニック、有機といった文字を見かけることが増えましたが、そうした食品を積極的に選ぶ人はどれほどいるでしょうか?
10年ほど前から世界の有機食品市場は成長を続け、アメリカ、ドイツ、フランス、中国で特に大きくなっています。実は、日本のオーガニック食品市場は世界と比べてかなり遅れをとったといえます。2018年時点の国別1人あたりの年間有機食品消費額を見ると、すでに1位のスイスが39,936円、2位のスウェーデンが29,568円であるのに対し、当時の日本では世界平均(1,638円)以下の1,408円にとどまり、圧倒的な差がありました(※)。
この現状に基づいて、農林水産省は2050年までに化学農薬・化学肥料の使用量を低減すること、耕地面積に占める有機農業の取組面積の割合を25%(100万ヘクタール)拡大することなどを目標に掲げることになりました。
※令和4年7月農林水産省「有機農業をめぐる事情」
水耕栽培への期待
その中で、水耕栽培が持続可能な食料生産の新しい道として注目されています。水耕栽培とは、土を使わず水と液体肥料を使った栽培方法。室内で栽培できる、光や温度を管理できる、病害虫の被害をあまり受けない、農薬もほぼ必要としないといった利点のほか、長年の農業経験や勘に頼らずに安定的に生産できることが大きな特徴です。
農林水産省が今後の課題として挙げている「生産者の減少・高齢化」「温暖化や大規模自然災害」「持続可能な開発目標(SDGs)や環境への対応強化」を、水耕栽培が解決に導いてくれるかもしれません。すでに国内企業の多くが、水耕栽培技術の研究や実用化に取り組んでいます。
オーガニック×水耕栽培!?
未来への期待が大きい水耕栽培ですが、この栽培法で作られた農作物は、有機認証の基準を満たさないという問題があります。日本をはじめ各国における有機認証の条件の一つに「土壌を使用して栽培していること」という条件があげられます。有機農業では、自然界の生物を介した物質の循環に重きを置いているからです。 しかし、「バイオポニックス」などの技術を利用することで、有機農業の一部の基準を満たせる可能性があります。これは水耕栽培の溶液に有機認証された栄養素を使用する栽培方法で、自然界の植物と有益な微生物の共生を土台にした、いわば水耕栽培と有機栽培のハイブリッド。この技術をベースに、より高度な管理システムや技術を導入し、大規模な生産性と効率性を追求したのが「プロバイオポニックス」です。日本でもバイオマス(生物に由来する有機物である資源)を肥料源とした養液栽培が可能となり、未利用資源の活用による環境負荷低減が期待されています。
持続可能な未来へ
これからの農業はただ食料を生産するだけでなく、地球環境を再生し、持続可能な生活を実現するためのモデルを提供する必要があります。オーガニック農業と水耕栽培の融合は、資源の効率的な使用と環境への影響を最小限に抑える、持続可能な食料生産システムへの重要な一歩となるでしょう。
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【参考資料】