フェムテックと栄養 -女性のヘルスケア-

月経や妊活、更年期など、女性特有の健康課題に向き合う「フェムケア」や「フェムテック」への関心が高まっています。この記事では、「フェムケア」と「フェムテック」という2つの視点を整理しながら、こうした悩みをサポートする栄養素材に注目し、日常に取り入れやすいセルフケアのあり方を紹介していきます。
INDEX
「話せるテーマ」女性の健康問題
PMS(月経前症候群)や不妊、更年期といった女性特有の健康課題は、これまであまり公の場で語られることが少なく、当事者が一人で抱え込みがちでした。
けれど近年では、社会の空気が少しずつ変わり始めています。経済産業省の推計によれば、こうした女性の健康課題による労働損失や離職などを含めた経済的損失は年間で約3.4兆円にのぼるとされています。
このような背景を受けて、フェムケアやフェムテックといった領域も拡大し、商品やサービスの選択肢も増加しています。
そして今、多くの人が自分の体調や変化を“意識して考え”、日々の中でどうケアしていくかを模索する時代に入りつつあります。
フェムケアとフェムテック――広がる選択肢
では、こうした動きの中で注目されている「フェムケア」と「フェムテック」とは、どのようなものなのでしょうか。まずは、その違いや役割について見ていきましょう。
どちらも共通するのは、女性が自分の体と向き合い、セルフケアを選択できる状態をつくること。フェムケアは“日常のケア”、フェムテックは“課題の可視化と対策”というアプローチの違いがあるものの、両者は補完し合う関係にあります。
●フェムケア(Femcare)
フェムケアとは、女性の体や心に寄り添う日常的なケアの総称。月経や妊娠、更年期など、ライフステージに応じて生じる変化に対応する商品や習慣が含まれます。
例:吸水ショーツ、温活グッズ、ハーブティー、骨盤底筋トレーニング器具、サプリメントなどを活用したセルフケア習慣
●フェムテック(Femtech)
フェムテックとは、「Female(女性)」と「Technology(技術)」を組み合わせた造語で、テクノロジーの力で女性特有の健康課題を可視化・解決しようとする取り組みです。
例:月経・妊活・更年期の管理アプリ、ホルモンバランスの自宅検査キット、AIによる体調予測、遠隔医療相談サービスを利用したセルフモニタリングなど
このように、フェムケアとフェムテックはアプローチの違いはあれど、どちらも女性自身の健康と向き合うための大切な手段といえます。

変化する女性の体と、栄養へのニーズ
女性の体は、思春期、妊娠・出産期、働き盛りの30〜40代、そして更年期からそれ以降と、ライフステージごとに大きく変化します。その背景には、ホルモンバランスの変化が大きく関わっています。
体調や心身のゆらぎに合わせて、必要とされる栄養素も変わっていきます。たとえば、鉄分やカルシウムが不足しがちな時期もあれば、ストレスやホルモン変動に対応するビタミン類が必要になる場面もあります。
以下は、主なライフステージごとに意識したい栄養素の一例です。
ライフステージ | よくある体の変化 | 意識したい栄養素例 |
思春期〜20代 | 月経開始、成長期 | 鉄分、カルシウム、ビタミンB群、たんぱく質 |
妊娠・授乳期 | 胎児の成長、体力の消耗 | 葉酸、鉄分、カルシウム、オメガ3脂肪酸 |
30〜40代 | PMS、ストレス、働き盛りの疲労感 | マグネシウム、ビタミンB₆、抗酸化成分、亜鉛 |
更年期以降(50代〜) | ホットフラッシュ、不眠、骨密度の低下 | 大豆イソフラボン、ビタミンD、カルシウム、 ポリフェノール |
食べるフェムケア――注目される栄養素材
日々の食事から女性の体に合った栄養素を補うことは、無理なく続けやすいセルフケアのひとつです。サプリメントや自然素材を上手に取り入れることで、自分の体調やライフステージに合わせたケアができるようになります。ここでは、女性の健康をサポートする視点から注目されている栄養素材をいくつかご紹介します。
■ 大豆イソフラボン
女性ホルモン・エストロゲンに似た構造と働きを持つ成分で、ホルモンバランスの乱れや不調の軽減に役立つとされています。更年期やPMSのサポートを期待して、多くのサプリメントや食品に活用されています。
■ マカ
南米アンデスに自生する植物で、古くから滋養強壮の目的で用いられてきました。近年では、エネルギー代謝の活性化やホルモンバランスのサポートが期待され、妊活期の栄養補助としても活用されています。
■ プロポリス
ミツバチが巣を守るために作り出す天然の成分で、古くから民間療法などで重宝されてきました。抗酸化作用があり、免疫サポートに役立つとされ、ストレスがたまりやすい現代の生活にもマッチした素材として注目されています。季節の変わり目や忙しい時期の栄養補助としても人気があります。
■ ローヤルゼリー
女王バチのためにミツバチが作り出す貴重な栄養素で、疲労回復に役立つとされ、滋養強壮剤などにも配合されています。
■ スピルリナ
太古の昔から存在する藻類の一種で、栄養価の高さから “スーパーフード”として知られていますが、1970年代にはNASAの宇宙食にも採用されるなど、栄養補助食品としての歴史があります。鉄分やビタミン、葉酸、たんぱく質などが含まれており、鉄不足になりがちな女性や、栄養バランスが気になる方のサポートに活用されています。
■ ビタミンD
サケやマグロなどの魚類やシイタケなどのキノコ類にも含まれていますが、日光を浴びることで、体内で合成されるビタミンとして知られています。現代人はとくに不足しがちだとされ、更年期以降の女性にとっては欠かせない栄養素のひとつ。最近では骨の健康に加えて、精神的な安定や免疫調整にも関与しているとされ、さらに注目が集まっています。
それぞれの素材は、単体で“万能”というものではないので、「今の自分にとって必要なもの」を選ぶのがポイントです。ライフステージや体調に合わせて、無理なく取り入れられるものから始めてみるのが良いでしょう。

フェムケアは自分に合うかたちで
フェムテックは「今の自分の状態を知る」ためのツール、食や栄養を通じたフェムケアは「体を支える日々のベース」として活用できるものです。どちらが正解というわけではなく、ご自身に合った方法を選べることが大切です。
たとえば
- 最近ちょっと疲れやすいと感じたら、栄養バランスも見直してみる
- 体調の波が気になるときは、アプリや検査キットで“可視化”してみる
- 忙しいときは、サプリや簡単な工夫で栄養を補う
体調やライフステージの変化に耳を傾けながら、無理なく、自然なかたちでケアを取り入れていくことが、 “なんとなくつらい”を減らし、“なんとなく心地いい”を増やすきっかけになるかもしれません。

【本原稿で参考にさせていただいた文献】
「女性特有の健康課題による経済損失の試算と 健康経営の必要性について」(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/jyosei_keizaisonshitsu.pdf
「女性活躍とフェムテック(コラム3)」(内閣府男女共同参画局)https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r06/zentai/html/column/clm_03.html
「フェムテックに関する経済産業省の取組(令和3年)」(経済産業省経済産業政策局)https://www.ki21.jp/kobo/r3/kyomed/keisansyou_femtec_siryou.pdf
「Mint⁺ フェムナレッジ」(あすか製薬)
https://www.aska-pharma.co.jp/femknowledge/
「ライフステージ別の食の課題と食事のポイント」(雪印メグミルク)
https://www.meg-snow.com/csr/syokuiku/kihon/lifestage.html
「妊産婦のための食生活指針」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000757450.pdf
「女性の健康と栄養」(大塚製薬)
https://www.otsuka.co.jp/nutraceutical/about/nutrition/womens-health-and-nutrition/
「素材情報データベース<有効性情報>」(国立健康・栄養研究所)
https://www.nibn.go.jp/eiken/info/hf2.html
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html
「ビタミンD:サプリメント・ビタミン・ミネラル – 一般」(厚生労働省eJIM)
https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/overseas/c03/10.html